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暗闇  辻仁成 サヨナライツカ


トリニーダドのカーニバルが近づいています。でもこのホテル
静かで、何もないかのようです。昼間は、あたたかく、夕方の
風がとてもすがすがしい。日本の海岸通の夏を想い出させる
匂いと湿気です。雲と高い空と、日が落ちて地平線が黒と青と
だいだい色が混じった色合いは、確実に昔日本で見た景色です。

暗闇の中でレーザーメスを使って心を焼く作業が始まります。
すごい匂いがしています。焼いたら歯医者のドリルで削って
いきます。馬鹿な恥ずかしい心臓はそんなことしても
止まりません。削ったら粘土をつめる作業です。空気を
いれると化膿して痛みを思い出すから、きちんと埋めて
回りをかぶせて見えないようにして、どんどんかぶせて。
時間をかけて風化させて、ある日トンカチでたたいて
割れれば自分がなくなって、あとは、体がなくなるのを
待つばかりです。ひとりっこはわがままで、弱くて、
夢想して、戯言が多くて大きらいです。戯言ばかり。
目の色と温度も変えるんです。
そういえば辻さんもひとりっこだったと思う。
でも芯があるえらいひとりっこだ。サヨナライツカは
悲しい本だった記憶があります。

サヨナライツカ (幻冬舎文庫)

サヨナライツカ (幻冬舎文庫)


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